「降り方の台風近きこと確か」(稲畑汀子)…


 「降り方の台風近きこと確か」(稲畑汀子)。このところ突然、「一天にわかにかき曇る」という表現を思わせるような豪雨に襲われることがある。それでカバンに折り畳み傘を忍ばせることにして、幾度か助かったことがある。

 豪雨というと、熱帯地方特有のスコールのようなものを思い浮かべてしまう。多くの被害をもたらした最近の日本の豪雨は、地球規模の温暖化の影響もあろう。

 かつて、第2次世界大戦の激戦地だった硫黄島に取材に行った時、ジャングルのようなイメージを受けたことがある。繁殖力の強いギンネムの木が島を覆うように茂っていたからである。

 雨の季節ではなかったので、晴天の空が青く澄んでいた。激戦地とはいえ、戦後数十年もたつと、それほど痕跡が残っているわけではない。ただ、上陸した海岸に座礁した廃船が朝夕の光を浴びて不思議なほど輝いていたことだけはよく覚えている。

 この太平洋の小さな島で、日本の兵士が多数亡くなっている。民俗学者の折口信夫(釈迢空)の養子・藤井春洋もその一人。折口はその死を悼み、自分が死ぬまで遺影の前で供養を続けたという。

 「葛の花 踏みしだかれて、色あたらし。この山道を行きし人あり」(釈迢空)。折口の短歌にはリズム感や色彩の鮮やかさがある。写実的なアララギ派の短歌とは異質な感じである。その折口が亡くなったのが昭和28(1953)年のきょう。忌日は「迢空忌」と呼ばれている。