東京国立博物館(東博)所蔵の長谷川等伯筆…


 東京国立博物館(東博)所蔵の長谷川等伯筆「松林図屏風」は、かつてNHKが行った国宝の人気投票で1位となった国民的人気絵画である。2013年の東博による「東博で見たい国宝投票」でも1位となった。

 しかし劣化防止のため、一般公開はガラスケースに入れて年2週間程度に限られる。そんな松林図ファンの飢餓感を解消しようと、東博では、夏休み企画「びょうぶとあそぶ」で、キヤノンが制作した高度な複製品を展示している。

 複製とはいえ、デジタルカメラやコンピューターの最新技術を駆使したもので、本物に限りなく近い。何より、前に敷いた畳に座って屏風本来の位置で鑑賞できるのがうれしい。

 01年、東京の出光美術館開館35周年を記念し同館で松林図が特別展示された。この時は、ガラスケース越しで、畳に置くのより高い位置だったが、鑑賞者の多くが館内の絨毯敷きの床に自然に座り込んで、松林図と無言の対話をしているようだった。

 ギリシャ・アテネのパルテノン神殿を飾っていた大理石彫刻、いわゆるエルギン・マーブルは、大英博物館の目玉展示品だ。しかし陽光の乏しいロンドンで見ると、生彩を欠いてしまう。室内であっても、南欧の光と乾いた空気の中で鑑賞すべきであると感じさせられる。

 芸術作品はやはり、誕生した風土の中で作品に合ったスタイルで鑑賞するのが、その本質を理解する上でもベストだ。複製制作は鑑賞の世界も広げてくれた。