20年以上も前になるが、体育館や図書館など…


 20年以上も前になるが、体育館や図書館などの公共施設いわゆる箱物が全国各地にどんどん建っていた頃。その印象について、ある地方の老婦人に話すと「私は図書館より、近くに八百屋さんが1軒できる方がよいですよ」と返されたのを憶(おぼ)えている。

 今から思えば、既にその頃から買い物に不便を感じる人がいたのであろう。しかしその声は、まとまった形で行政の側にはなかなか届かなかった。

 総務省は先頃、人口減少や少子高齢化の進展に伴い、食料品店などが近所にない「買い物弱者」の増加が見込まれるとして、国と地方自治体が積極的に対策を講じることが重要だとする通知を関係府省に出した。

 買い物弱者の定義も明確ではないが、農林水産省は372万人程度、経済産業省は700万人程度と推計している。しかし買い物弱者対策を主に担う所管府省は決まっておらず、府省間の横の連携も深まっていないため、足並みはそろっていないという。

 また移動販売や店舗開設、買い物代行などを行う事業者を調べたところ、193事業のうち約7割が実質的に赤字に陥っていることが判明した。

 買い物をしようにも、自ら足を運ぶことのできる範囲に店がないというのはとても不便なことだし、特に高齢者は張りのある生活を送ることも難しくなろう。深刻な事態であり、買い物弱者の暮らしを支援するため、官民挙げて知恵を絞る必要がある。解決が急がれる問題の一つである。