「滝へゆく細き山みち山道の折れ曲る処百合の…
「滝へゆく細き山みち山道の折れ曲る処百合のはなさく」(木下利玄)。作者が滝へ行く山道で見つけたユリは、ヤマユリかササユリだったのだろう。自生のままで気品があって美しい夏の花だ。
万葉集でもユリを詠んだ歌は10首に上る。「道の辺(へ)の草深百合の花笑(ゑ)みに笑まししからに妻と云ふべしや」と歌われたように、花が咲くのを「花笑み」と例え、さらに女性の笑うのを「花笑み」とも表現した。
楽しい言語表現だが、農学博士の釜江正巳さんは『花の風物詩』で「本音は、花を賞でるのではなく、球根がネライではなかったのか」と洞察する。大伴家持に「庭中の花を見て作る歌」があり、球根目的で植えられていたらしい。
福井県の鳥浜貝塚では縄文前期とみられるユリ科の球根が発見されている。食用の利用は5000年の歴史がある。神奈川県などはその名産地だったが、近年では北海道産のコオニユリが市場の多くを占めている。
現代ではハイブリッドの園芸品種が開発されて、色彩も形も驚くほど多彩。それらを一堂に見せてくれる所が、栃木県那須塩原市にあるスキー場を利用した「ハンターマウンテンゆりパーク」だ。
3万坪に約50種400万輪のユリ畑。早咲き、中咲き、遅咲きの花が咲き続ける(8月27日まで)。全長1000㍍、約10分のリフトに乗るとユリの絨毯(じゅうたん)を眺めることができる。その華やかな色彩の氾濫は利玄の歌とは異なっている。時代の違いでもある。