人、モノ、お金、情報が、国境を越えて行き…
人、モノ、お金、情報が、国境を越えて行き交うようになったグローバル化の時代。賛否両論、議論がなされているが、それが引き起こした社会変動は家庭の中にも及んでいる。
公開中のドイツ=オーストリア映画「ありがとう、トニ・エルドマン」は、欧州でのグローバル化を背景にした、ドイツ人監督マーレン・アデさんの作品。40以上の賞に輝き、シネマ各誌が2016年映画のベスト1に選んだ。
これは父と娘の物語で、60代になる元音楽家で戦後世代の父と、30代後半のグローバリズム企業戦士の娘との価値観の相違、世代間ギャップ、孤独感を、シリアスな演技でコミカルに描いている。
父は娘を自由な精神で育てようとしてきた。だが、たがの外れた資本主義は望ましくもなく、どうしていいのかも分からない。一方、娘は経営コンサルタントとなって、ルーマニアのブカレストに進出、石油会社の合理化に腐心している。
父は、自分を殺して生きている娘のことが心配でならないのだ。飼い犬の死をきっかけにブカレストに行って別人に成り済まし、娘に付きまとう。いたずらが大好きで「ドイツ大使」だの「人生のコーチ」などと名乗る。
謀略に満ちた職場で娘はぴりぴりして生きている。父は不意打ちの連続で娘に現れる。そこから浮かび上がってくるのは親子の真実の愛で、やがて娘は真っさらな自分を取り戻そうとする。グローバル化は家庭の問題でもあった。