「人間同士のつき合いは、たとえ、どんなに…
「人間同士のつき合いは、たとえ、どんなに遠慮のない仲であっても、常に一種の演技である」と、フランス文学者で評論家の河盛好蔵(1902~2000)が書いている。谷沢永一著『百言百話』(中公新書)という本の中で紹介されている。
演技というと、俳優や演出家、映画・テレビ・演劇関係者の話と受け止めるのが普通だ。確かに彼らは、演技をする、させるのを仕事にしている。とはいえ、この世の中で芸能関係者だけが演技をしているわけではない。
どうやら演技は、映画や演劇を超えて、あらゆる人間の行動の中心にあるもののようだ。それでも、芸能関係者でない人は「さっきのアレは演技だ」などと言われればギクリとする。自分が何かを演じているとは思いもしないからだ。普通に生活していれば、無理やりセリフを覚える必要はない。
しかし芸能人でない人たちも、自分をよく見せようとする方向で発言や行動をしているのも確かだ。あまりにも自然に行われているため、それが演技だとは意識されない。相手との関係も、良好な状態を維持しようとするのが普通だ。そこにも当然、無意識の演技がある。
だがまた、人間関係も微妙に変わる。メンバーの組み合わせ、仲間の状況、はたまた当人のその日の気分などによって時々刻々と変化する。
それを見越して、場を読みつつ行動なり発言なりを続けるしかないのだから、やはりこれは高度な演技だと結論付けるしかない。