「子燕のさゞめき誰も聞き流し」(中村汀女)…
「子燕のさゞめき誰も聞き流し」(中村汀女)。駅前に向かって歩いていると、風を切るようにツバメが飛び交っていた。そろそろと思っていたので、嬉(うれ)しい気分とともに夏の到来を実感した。道路の両側には所々にツバメの巣があり、子育ての真っ最中。
稲畑汀子編『ホトトギス新歳時記』では、季語の「燕(つばめ)の子(こ)」について「燕は五、六月ごろ雛を育てる。巣の中で、四、五羽の嘴の黄色い子燕(こつばめ)が大きな口を開けて親燕(おやつばめ)に餌をねだるさまは可愛らしい。孵化後三週間くらいで巣立をする」とある。
毎年、この時期にツバメの姿を見るのは快いものがある。鳥の中でよく見掛けるのはスズメだが、近づくとすぐに飛び立ってしまう。その点、人の住む家の軒先に巣を作るツバメは親近感がある。
ツバメの巣を意外な場所で発見することがある。それは駅の構内の壁。人の手の届かない所に巣作りのための板があり、そこで子ツバメがエサを求めて鳴いている。ところが先日、その中の1匹が巣から落ちたらしく、階段やフロアをピョンピョン跳びはね、その周囲を親鳥が飛び回っている。
天敵のカラスやネコ、ヘビがいないとはいえ、駅は人で混雑する。と思っていると、周囲の人たちがスマートフォンを片手に、この子ツバメの姿を撮影している。
所用ですぐにその場を離れたので、その後どうなったか気になっていたところ、動画投稿サイト「ユーチューブ」で無事に巣立ちしたことを知って安心した。