「作家の大江健三郎氏の自宅には核シェルター…
「作家の大江健三郎氏の自宅には核シェルターがある」との噂(うわさ)が流れたことがあった。真偽は今もって不明だが、それなりにリアリティーがあった。冷戦当時の話だ。
大江氏は反米主義者だ。だから、核シェルターを取り付けたのも核を保有する米国への反発の故だと言われた。一方、本気で核を恐れていたという批評もあった。こうしたわけで、噂話も「ありそうなこと」と受け止められた。
大江氏が反米であったとしても、日本は西側陣営に属しているのだから、核ミサイルは旧ソ連の方から飛んで来る。大嫌いな米国と対立しているソ連からの核攻撃を恐れるのも皮肉な話ではあった。「ソ連の核はよいが、米国の核はいけない」という風潮の時代だ。
それから数十年、今度は北朝鮮の核に備えて核シェルターが注目されている。シェルターまではいかなくても、核兵器であれ通常の弾頭であれ、どのように避難するかが話題になっている。
米国を含めて、世界全体が北朝鮮の核に何一つ効果的な対策を取ることもないまま今日に至った。この問題をめぐる6カ国協議は、核開発のための時間稼ぎに利用されただけだった。オバマ前米政権は「戦略的忍耐」を掲げたが、核開発を止められなかった。
そのツケが回ってきている。北朝鮮は近く、6回目の核実験を強行するとの見方もあり、核の脅威は高まる一方だ。冷戦当時も現在も「核兵器」という強固な現実は全く変わっていない。