「いちまいの切符からとは春めく語」(後藤…
「いちまいの切符からとは春めく語」(後藤比奈夫)。実際にはまだ寒い日が続くが、梅の花や菜の花を見掛けると春めいてきたと感じる。春は卒業式や入学式・入社式などのシーズンで、出会いと別れの季節でもある。
この時期に感傷的になりやすいのは、そのせいもあるだろう。草木が芽吹き、春の花が咲く光景の中、長年交流してきた友人や同級生と別々の道を歩み始め、新しい出会いを迎える。
卒業旅行は、区切りを付ける絶好の機会である。この時期、こうした旅のために、日本全国のJRの普通列車が乗り放題になる「青春18きっぷ」がある。利用期間は3月1日から4月10日まで。駅は出会いと別れの場でもあり、卒業旅行には列車の旅がふさわしいのかもしれない。
「可愛(かわい)い子には旅をさせよ」ということわざがある。子供が親元を離れ、旅をすることが、心の成長を促すことになるからだろう。ところが、この切符の愛用者は、青春を謳歌(おうか)する青少年だけではなく、中高年が少なくないという。
「むしろお金も時間も自由になる中高年世代にとってこそ、使い勝手の良い切符なのだ」(芦原伸著『60歳からの青春18きっぷ』新潮新書)。第二の人生ではないが、ふらりと旅に出るのもこの季節はいい。
詩人の萩原朔太郎に「新しき背広をきて/きままなる旅にいでてみん」(「旅上」)という詩句がある。そんな浮き浮きした気分に誘われ、春の野を探しに出掛けてみたいものである。