きょうは立春。厳密には雨水の前日の19日まで…
きょうは立春。厳密には雨水の前日の19日までが、二十四節気の立春に当たる。空気はまだ冷たいが、日脚は確実に伸びてきている。
「袖ひちてむすびし水の凍れるを春立つ今日の風やとくらむ」。『古今和歌集』春歌上の紀貫之の歌である。高校の授業で習った時は、夏の思い出を背景に、春の訪れが視覚的に鮮やかに表現されていると思った。
後に、これが実際の情景ではなく作者の想像であり、かなり観念的な歌であることを知った。大概の注釈書には、この歌が中国古代の『礼記』月令の「孟春(春のはじめ)の月、東風凍を解く」を踏まえたものであると解説されている。国風文化の始まりとされる古今集にして、中国古典の影響は大きかった。
しかし考えてみれば二十四節気自体、中国で生まれたものだ。中国の古典が教養の中心であった平安の下級貴族の貫之が、立春を詠おうとした時、礼記の章句はごく自然に浮かんだものと思われる。
もっとも中国・華北の大陸性気候と海洋性の日本の気候とでは、実際の季節感ではズレが生じる。「暦の上ではもう春ですが……」という表現が、テレビの天気予報などで使われるのはそのためだ。
しかし日本人は、このズレも一種の妙味として歌に詠んできた。古今集から、典型的な二首を引く。「雪のうちに春は来にけり鶯のこほれる涙今やとくらむ」(二條の后)、「春たてば花とや見らむ白雪のかかれる枝に鶯の鳴く」(素性法師)。