「戸の隙におでんの湯気の曲り消え」(高浜虚子)…


 「戸の隙におでんの湯気の曲り消え」(高浜虚子)。知人からおでんの差し入れがあった。味がよく具に染み込んでいて久しぶりに懐かしい思いをした。

 おでんは俳句の冬の季語でもある。稲畑汀子編『ホトトギス新歳時記』には「もとは田楽からきている。蒟蒻、さつま揚、焼豆腐、竹輪、はんぺん、大根、がんもどきなどをだしを利かせて醤油仕立てに煮込み、辛子をつけて食べる」と書かれている。

 おでんでは、気流子は大根に目がない。大根を好きになったのは、おでんからである。それまでは苦みがあるため、漬物のたくあん以外はあまり食べなかった。

 「堂あつて縁に大根山とつみ」(高久田瑞子)。大根はやはり冬の季語である。「古名は『おほね』といい、春の七草では『すずしろ』といわれる」(『ホトトギス新歳時記』)。この時期、地方の家ではたくあんにするために大根を干す風景もよく見られる。大根は長い間、日本人に寄り添った伝統的な野菜と言えよう。その他では、蒟蒻(コンニャク)が仏教とともに伝来したことが知られている。

 おでんの他、冬には鍋物が欠かせない。季語には「蕪汁(かぶらじる)」「納豆汁」「粕汁(かすじる)」「闇汁」「のっぺい汁」「三平汁」「寄鍋」「石狩鍋」など、見ているだけで気持ちが温かくなるほど。

 暖房器具がほとんどなかった時代には、温かい食べ物が寒さを忘れさせたのだろう。そうした食材や料理の豊かさが和食の原点になっていることは間違いない。