「帰る気になかなかならず山車に従き」。高浜…
「帰る気になかなかならず山車に従き」。高浜虚子の孫で「ホトトギス」名誉主宰の稲畑汀子さんが昭和51年、能登半島の七尾市を訪れた時の句である。市内の小丸山公園に句碑が立っている。
「山車」は普通「だし」と呼ぶが、この句の場合は「やま」だろう。七尾市には5月に「青柏祭」という祭りがあり、「でかやま」の愛称で親しまれる巨大な曳山3基が市中を巡行する。稲畑さんは、その山車に付き従って見物するのが面白く帰る気にならなかったのだ。
稲畑さんの心を捉えた「でかやま」は、高さ12㍍、重さ20㌧の日本最大の山車だ。舟形の山車は筵なども使い、豪壮・素朴な作りで、その動く様は、文字通り山が動くような迫力がある。
この青柏祭を含む33件の祭り「山・鉾・屋台行事」がユネスコの無形文化遺産に登録された。一足先に登録されていた京都祇園祭の山鉾が、その古さから、日本各地の山車の原型となっているようだ。
とはいえ登録の決まった全国の曳山行事には、その地方独特の趣向が凝らされている。似ているようで同じものは一つもなく、豊かな地方色を示している。お囃子や木遣りなどの音楽から、祭りの時に食べるハレの料理など、地方の文化が集約されている。
それらは地元の人々にとって大きな楽しみであり、誇りである。旅人にとっては、地方色を集約して楽しむ機会となろう。曳山行事を見物に、地方を巡ってみたいものだ。