アーティストの杉本博司さんは立教大卒業後…


 アーティストの杉本博司さんは立教大卒業後、1970年代に渡米し、ニューヨークを拠点に、大型カメラを使って写真作品を制作。作品はメトロポリタン美術館など世界中の美術館に収蔵されている。古美術や伝統芸能にも造詣が深く、建築作品まで手掛けてきた。

 長い歳月を米国で過ごすうちに、心を占領するようになったのは、人類と文明の終焉(しゅうえん)というテーマであり、人類史を俯瞰(ふかん)して見たいという思いだ。東京都写真美術館で開かれている「ロスト・ヒューマン」展はその集大成。

 展示作品の一つに、世界初公開となる「廃墟劇場」がある。初期から撮り続けた「劇場」を発展させたシリーズで、経済のダメージや映画環境の激変で廃墟と化した全米各地の劇場を舞台にした。

 そこはかつておびただしい人が集い、華やかだった場所。作者自らスクリーンを張り、持参した映画を上映し、それを大型カメラで撮影。上映1本分の光量で長時間露光して作った作品だ。

 カメラが見たのは十数万枚という写真の残像だが、作品に表現されているのは光ったスクリーンのみ。上映した映画の作品名をタイトルにし、あらすじが記されている。『羅生門』『ローズマリーの赤ちゃん』『無常』など。

 こうした文脈に映画を置いてみると、文明が滅んでいく理由をそれらの映画そのものが示していたと理解できる。文明の在り方に反省と再考を迫る写真作品だ。11月13日まで。