日本の宗教には輝かしい伝統がある。鎌倉時代…


 日本の宗教には輝かしい伝統がある。鎌倉時代には、民衆の苦悩を救うために数々の宗祖が誕生したが、その中に、臨済宗創始者、栄西の弟子で、曹洞宗開祖、道元がいる。

 当時の京都は夜盗が横行し、人心が乱れ決して平和な都ではなかった。道元は宋から帰国後、先師の寺、建仁寺に入ったが、「(道元は)後に財宝と淫語とに関する言説において、悪しき例として建仁寺を引いている」(和辻哲郎著『沙門道元』)という如(ごと)くだった。30歳の時、洛南深草の廃院に移り修行を続けた。

 時代も人物も全く違うが、大寺院がトップの不祥事で揺れている。天台宗の「大勧進」と浄土宗の「大本願」という二つの組織が共同で管理している長野県の善光寺がそれ。

 住職で、天台宗大勧進の小松玄澄貫主(82)が、寺の女性職員にセクハラ行為やパワハラ行為を繰り返していたという。同寺傘下の天台宗の寺の住職で作る団体が、辞任を勧告した。

 貫主側は一連のスキャンダルを全否定しているが、過去にも相応(ふさわ)しくない行為があった。今回も複数の被害者が証言し、実際に配置転換などさせられているから事実だろう。「生き仏」と称えられる人物の不祥事はあまりにお粗末だ。

 ただ、檀家(だんか)が一致団結して猛反発しており、一歩も引かないその強い団結心に救われる思いがする。飽食時代の寺院の在り方を問い、精神的リーダーたちの責務と自覚を促す頂門の一針でもある。