先日亡くなった世界的な指揮者ニコラウス・…


 先日亡くなった世界的な指揮者ニコラウス・アーノンクールさんが「ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス」を創設したのは1953年。古楽器を集め、古い演奏法を研究し、未開拓の領域を開いていった。

 それまでウィーン交響楽団のチェロ奏者だったが、戦後、新しい価値を求めていた時代の中で、彼は古楽の中にそれを見いだしたのだ。かつて音楽は人生や文化の大黒柱で言葉ならぬ生きた言語だった。

 最も困難だったのは楽器にふさわしい演奏家を探すこと。優れたヴァイオリニストでも、バロック・ヴァイオリンを試してみると汚い音しか出てこなかった。演奏法を基礎から学ぶ必要があった。

 54年に「楽器と言葉」という論文を書いた。著書『古楽とは何か』の第2章で、フランス革命以前の弦楽器について、その構造や音色や演奏上の問題について語った学術的論文。

 第1回の演奏会を開いたのは58年2月。ウィーンのシュヴァルツェンベルク宮殿で、15世紀から18世紀までの音楽をオリジナルのかたちで披露した。デビューは成功で、追加公演では聴衆が殺到した。

 70年にはバッハの「マタイ受難曲」を当時のスタイルで再現した。「冒頭の合唱を初めて練習したとき―どのグループも自分たちのパートをしっかりと稽古していた―我々は涙が出そうになった」と回想している。古楽を甦らせることで過去の人々の生活、信仰、世界観を見せてくれたのだ。