「浅き春空のみどりもやゝ薄く」(高浜虚子)…


 

 「浅き春空のみどりもやゝ薄く」(高浜虚子)。2月は暦の上では春になる。厳密には2月4日の立春の日から。だが、唱歌「早春賦(そうしゅんふ)」の歌詞「春は名のみの風の寒さや」が思い出されるほど、まだ朝夕は冷えて寒い。

 稲畑汀子編『ホトトギス新歳時記』によれば、春は「立春から立夏の前日までであるが、月でいう場合は二月、三月、四月を春とする」。2月が「名のみの春」というのは実感がこもっている。

 この唱歌を作詞した吉丸一昌は、長野県安曇野辺りの雪解けの風景に接して歌詞を書いたと言われている。高地である安曇野の早春は、確かにかなり寒いはずである。この歌を口ずさむと、今の時期にしっくり来るものがある。

 「歳時記の二月は薄し野に出づる」(佐伯哲草)。しかし、辺りを散策すると、どこか春の兆しが感じられる。春も突然来るわけではない。植物も突然春になって芽を出し、葉を繁らせるわけではない。見えないところで、その準備をし、徐々に姿を現し、そして春の盛りには一斉に緑が辺りを占領する。

 桜の木にも小さなつぼみがあり、畑にも花壇の土にも植物の芽が吹き出し、少しずつ緑が濃くなっているのが感じられる。

 「何事もなくて春たつあしたかな」(士朗)。春は冬の寒さからの解放や植物の芽が育つことなどから、希望の象徴ともされる。春には暖かさだけではなく、心にも春風が吹くような希望的な話題が多くなることを望みたい。