今期芥川賞受賞作は2作。その中の又吉直樹さんの…


 今期芥川賞受賞作は2作。その中の又吉直樹さんの「火花」(「文藝春秋」9月号掲載)を読むと「本物だ」と安心する。人気芸人のネームにあやかった受賞ではないことがはっきり分かる作品だからだ。

 芸人が芸人の世界を描いたからといって、その内幕が書かれているわけではない。内幕物では芥川賞は取れない。むしろ、作者の資質がはっきりと書き込まれていて、芸人の世界を超えて人間の普遍的真実に迫っている。

 語り手の「僕」は、芸人仲間から「斜に構えている」と思われていると感じる若者だ。が、実際は緊張で顔がこわばっているだけで、斜に構える余裕なぞ全くない。だが、周囲はそれを「他者に興味を持っていない」とか「好戦的な敵意」を持つ男、と誤解する。

 この種の誤解されやすい人間は必ず存在する。文学の全てがそうだとは言えないが、大方はこうした人間によって書かれてきた。読者も似たタイプが多い。

 こういう「僕」と先輩芸人の交流と別れを描いたのが「火花」だ。文学作品としては古典的、伝統的で、文学史に新しい何かを付け加えたわけではない。

 芥川賞の歴史の中に置いてみれば「中の下」という評価になるだろうか。作者も芸人としての活動を優先していきたいと考えているようだ。それでも、他人とたやすくコミュニケーションを取ることができない太宰治型の人間をキッチリと描き出す“才能”は今時なかなかのものだ。