「西洋資本主義の問題は何かというと、たとえ…


 「西洋資本主義の問題は何かというと、たとえ資本家が個人として神に対する信仰を持っていたとしても、西洋の資本主義そのものが根本的に神不在の制度であるということです」。

 米国の神学者R・ルーベンシュタインさんが1985年7月、東京で行った講演「神の死の神学と東西宗教の新しい綜合の可能性」(国際クリスチャン教授協会主催)の一節。「神の死の神学」は60年代の米国で起こった運動だ。

 彼もその担い手の一人だった。これは無神論思想ではなく、また特定の支持者から成る運動でもなかったが、理性を推し進めていけば、聖書的超越神は人間とは懸け離れた存在になると主張した。

 神の超越性という教義から生まれたのは、極端な世俗化の現象だった。加えて聖書こそキリストによる救いを得る唯一の道だったが、19世紀にドイツで始まった聖書批判はそれを単なる文学書におとしめてしまった。

 米連邦最高裁判所は同性婚を禁止した州の規定に違憲判決を下し、全米50州で同性婚が認められることになった。世俗化は人間の家庭秩序を狂わせるところまで進んだ。キリスト教史になかった事件だ。

 ルーベンシュタインさんの講演の題に「東西宗教の新しい綜合の可能性」とあったように、彼は東洋に西洋の難問を克服するカギがあることを感じていた。伊勢神宮を訪れて深い感動を覚えたという。木造の神社に神が宿っている文化を見たからだ。