ホトトギスの季節になった。あちこちで鳴き声…


 ホトトギスの季節になった。あちこちで鳴き声が聞こえる。名曲「夏は来ぬ」(作曲小山作之助)を思い出す。「うの花の/におう垣根に/時鳥(ほととぎす)/早も来鳴きて……」と続く(1番)。

 作詞は歌人の佐佐木信綱(昭和38年没)。この歌ができた明治29年当時、24歳。120年も前の歌だから、古めかしいのは仕方がない。

 3番には「おこたり諌むる/夏は来ぬ」という歌詞がある。「怠けるな」の趣旨は分かるが、誰がどんな「おこたり」を諌めているのだろうと思った。ヒントになったのは、その前の「窓近く/蛍とびかい」という歌詞だった。

 貧しくて灯油を買えなかったので、蛍を袋に入れてその光で勉強した、という中国古代の故事を反映している。「おこたり」は勉学に関わることだった。彼は望みかなって高級官吏にまで出世するが、その後自殺した。

 「おこたり」を諌めると言っても、蛍がそのようにするわけではない。蛍の袋を見ながら勉学する我が身を、自身が「もっとガンバラなければ」と励ます歌だ。「蛍の光」(明治14年)という歌もある。「蛍雪」という言葉もあるぐらいだ。

 「あおげば尊し」(明治17年)には「身をたて/名をあげ」との言葉も見える。立身出世。明治10年代から20年代にかけては、当時も多様な人間がいる中、勉学して国のために役立つ人間にならなければ、という強い思いが世にあふれていた時代ではあったようだ。