「そこに山があるから」―1923年、ニューヨーク…


 「そこに山があるから」――1923年、ニューヨーク・タイムズのインタビューを受けた英国人登山家、ジョージ・マロリーが「なぜエベレストに登るのか」という質問にこう答えたという。

 当時、エベレストの初登頂を狙い、さまざまな手づる、足掛かりを見つけようとしたマロリーの静かな闘志と野心がうかがえる。24年の英国第3次遠征に参加したが、頂上付近で行方不明となった。

 この伝でいくと次の話は「そこに木星があるから」ということになろうか。米航空宇宙局(NASA)は先月、木星の衛星(名称はガニメデ)の地下に海が存在することを示すこれまでで最も確かな証拠が見つかったと発表した。

 海は地下150㌔にあり、深さは地球の海の10倍にもなる100㌔に達する。地球と同じ塩水で、地球上の水量より多いとみられる。木星の衛星に海があるか否かという長年の論争に決着を付けることになった。

 関係者が「太陽系に生命が存在する可能性が明らかになった」と答えていたが、部外者にもその興奮が伝わってきた。今回の発見は、見上げる天体から、共感、体感する天体へ変わる端緒という解説も。

 同じ太陽系の天体と言っても、地球から木星までの距離は太陽までの4~5倍で謎の多い存在でもある。しかし木星やその衛星の実態を知り、そこに向かう足掛かりをつかみたいという人間の欲求が発見につながったと言うことができよう。