「私にとって紛争地域の報道は主張の手段で…


 「私にとって紛争地域の報道は主張の手段であり、自分の勇気の試金石でもあった。恐怖心をどこまでコントロールできるか探ることに酔ってもいた」。公開中の映画「おやすみなさいを言いたくて」のエーリク・ポッペ監督の言葉だ。

 同監督はオスロで写真を学び、1980年代に報道写真家として活躍。映画の主人公は女性写真家だが、男性を女性に置き換えただけで、危険地帯での自分の体験を作品化したものだという。

 テーマは、紛争地で死を恐れない写真家と、彼女が危険に身をさらし続けることに耐えきれなくなった家族との葛藤。主人公は夫と娘たちに支えられて家を留守にするが、そこには心の亀裂ができていた。

 アフガニスタンでタリバンの自爆テロの取材中、彼女は爆破に巻き込まれて負傷し、夫に連れられてアイルランドの自宅に帰った。そして家族を崩壊させないために「戦場には行かない」と約束する。

 しばらくは家族との時間を取り戻すのだが、仕事への情熱は消えない。その情熱に流されるように、その後、二つの紛争地での取材がドラマのヤマ場を構成していく。最後に登場するのは冒頭と同じアフガン。

 最初と同じ自爆テロの取材で、儀式をして少女が爆弾を身に着けるが、その少女が自分の娘と重なって見え、悲しみに襲われてシャッターを押せなくなってしまう。女性写真家の心理劇だが、母の子への思いは人類共通だ。