作家の島崎藤村は好きな食べ物のこと…
作家の島崎藤村は好きな食べ物のことについて触れた随筆で「肉の中では、何と言つても私は、小鳥類がうまいかと思ひます。魚では、川魚が好きです」(「身のまはりのこと」)と書いている。
木曽路を舞台にした代表作『夜明け前』では、主人公が小鳥を食べる場面が何度も出てくる。種類はアトリ、ツグミ、ヒワで、最も美味なのはツグミだという。渡り鳥で秋になるとやってきた。
「大平村の方では毎日三千羽ずつものアトリが驚くほど鳥網にかかる」とも記す。猟師が小鳥を捕まえるための基地としたのが鳥屋(とや)で、カスミ網猟によるものだが、その全貌を描いたドキュメンタリー映画「鳥の道を越えて」が公開中。
監督の今井友樹さんの故郷は木曽路から山ひとつ隔てた岐阜県の東白川村。昭和22年にカスミ網猟が禁じられるまで、鳥猟が盛んだった地方だ。今井さんは祖父から鳥猟の思い出話を聞いて、未知の世界に興味を抱いた。
猟を経験した老人たちから話を聞きつつ現場を訪ね、猟の方法や、歴史や、料理法や、商いに至るまで解明していく。文献は江戸初期までさかのぼることができ、生活文化だったことが分かる。
そのうえ今もカスミ網を使って標識調査をしている福井県の織田山鳥類一級ステーションを訪ねて、森の伐採と植林により、渡り鳥の数が減少している現実を伝える。それでもロシアから来る冬鳥は100種類に上るそうだ。