「井の頭公園の池のほとりに、老夫婦二人きり…
「井の頭公園の池のほとりに、老夫婦二人きりで営んでゐる小さい茶店が一軒ある。私は、私の三鷹の家に、ほんのたまに訪れて来る友人たちを、その茶店に案内する事にしてゐるのである」。
太宰治の「乞食学生」(昭和15年)に登場する井の頭公園の風景である。東京都三鷹市下連雀にある太宰治文学サロンで「太宰治×井の頭公園」の企画展示が開催中で、8点の作品が紹介されている。
原稿やはがきの複製、初版本なども。太宰の文字は几帳面で読みやすく、繊細なところも感じさせる。会場の傍らには航空写真で表されたマップがあり、太宰の足跡が一目で理解できる。
きょう19日は桜桃忌で、文学サロンでは、直筆資料を公開するという。亡くなったのは昭和23年6月13日。玉川上水に身を投じた。地元の人々にしてみれば忌まわしい出来事で、批判が集中したそうだ。
その1年後の桜桃忌の様子を、亀井勝一郎は「飲みつつ思い出を語るといったふうで、いや思い出どころか、太宰そっちのけで文学喧嘩を始める有様でなかなか賑かなものである」(『無頼派の祈り』)と記す。
墓は同じ市内の禅林寺にあり、太宰が亀井から全集を借りて読んだという森鴎外の墓も近くにある。太宰の墓には花束が絶えることなく、鴎外に比べて、圧倒的な人気を誇っている。桜桃忌の行事は墓前で行われ、その後、みたか観光ガイド協会のガイドによるツアーがあるという。