<ひと日臥し卯の花腐し美しや>(橋本多佳子)…
<ひと日臥し卯の花腐し美しや>(橋本多佳子)。「卯の花腐し」は、卯の花を腐らせるように、たゆみなく降る雨のことで、夏の季語。雨が降り続く鬱陶しい季節の中にも、美と風情を感じ取ってきた日本人の感性が生んだ言葉である。
「卯の花腐し」の他、雨の多い日本では、降り方や降る時期によって、さまざまな雨の呼び名がある。春雨、村雨、時雨など、それぞれがその時期特有の降り方をするところから生まれたものだ。
しかし最近は、そういう特徴がなくなりつつあるように思えてならない。しとしと降る雨が減り、いきなりざあざあ降りになったりすることが多くなったように感じられる。降り方の微妙な違いは気象記録として残りにくいが、1時間に降る雨量などを見れば、そんな傾向は出ているはずだ。
昨日東北地方が梅雨入りし、北海道を除く日本列島全域が梅雨入りした。その直後、各地で6月では記録的な大雨となり、土砂災害への警戒が叫ばれている。こういう雨はどちらかというと梅雨の終わり頃、降るはずなのに。
これも温暖化の影響だろうか。いずれにしても沢山の季語を生んだ季節の微妙な移り変わりが、だいぶ大味なものになったのは否めない。春や秋の1年で最も過ごしやすい時期となると、昔と比べぐっと少なくなった。
日本には季節を歌った名歌が多いが、そんな歌を聞く度に、昔は季節感が豊かだったとしみじみ思う今日この頃である。