読書界の密かな話題となり、昨年4月の…
読書界の密かな話題となり、昨年4月の発行から既に14刷を重ねるマイケル・ブース著『英国一家、日本を食べる』(寺西のぶ子訳、亜紀書房)をようやく読んだ。著者のブース氏は旅とグルメが専門の英国人ジャーナリスト。
書名から「食事がうまいとはいえない英国の家族が、日本に来て食べれば、そりゃ美味しいだろう」くらいに思っていた(失礼)。しかし読んでみて、これほど深く、好奇心と愛情をもって日本の食を評価した本はないのではないかと思った。
ブース氏はパリの有名料理学校で学び、三つ星レストランで修業した経験を持つ。しかし権威主義とは無関係。自分の舌と五感、そしてヒューマンなセンスを拠り所に日本の食に対している。取り上げられた料理は、札幌のラーメン横町のバターコーンラーメンから本場京都の懐石、服部幸應さんが日本一の折り紙をつける超高級和食までと幅広い。
フランスやイタリアなどと比べると英国は大芸術家の数こそ少ないが、国民の鑑賞眼の高さには定評がある。だから優れた批評家が多い。
日本の料理人の飛び抜けた素晴らしさの根底にあるのは、料理や素材に対する「謙虚さ」にあるとブース氏は結論づけている。なるほどと感心するとともに、自分自身の不明を恥じざるを得なかった。
今月、続編『英国一家、ますます日本を食べる』も出た。日本人自身が、和食を見直すきっかけになる本として一読をすすめたい。