江戸末期、開港とともに写真の技術が日本に…


 江戸末期、開港とともに写真の技術が日本に入ってくると、欧米人からそれを学んで営業を始める人物も登場する。下岡蓮杖(れんじょう)はその一人で、「写真開祖」として多くの弟子を輩出した 。

 今年はその没後100年に当たり、東京都写真美術館で国内外で初の試みとなる大回顧展が開催中だ(5月6日まで)。その名は、長崎で活躍した上野彦馬に対し、東の蓮杖とうたわれたほどだったが、空白部分も多かった 。

 人物、風俗、風景を主題にした写真の多くは制作年代がはっきりしない。そのため文久3(1863)年~明治9(76)年と、写真師として横浜で活躍していた時代をそのまま表示するしかないらしい 。

 回顧展の特徴は、前半が写真で、後半が絵画で構成されている点にある。同美術館でこのように多くの絵画作品を展示する例はないそうだ。写真師としてよりも絵師として過ごした時間の方が長かったからだ 。

 蓮杖はキャリアを狩野派の絵師としてスタートした。写真に出会ってその妙技に驚き、技術を習得して、写真館を開業。絵画は日本画が多いが、油彩もあり、キリスト教のテーマもあって、幅広さに驚かされる 。

 油彩の大作「箱館戦争図」(明治9年)は、明治新政府と旧幕府軍との函館での戦いを描いた作品。遠近法や群衆表現など西洋的手法が見られ、西洋文化に出会ってそれを貪欲に学び取ろうとした蓮杖の意欲が伝わってくる。