東京都写真美術館で「黒部と槍」展が開催中だ…


 東京都写真美術館で「黒部と槍」展が開催中だ。明治大正期に北アルプスの黒部渓谷に足を踏み入れた冠松次郎と、槍ヶ岳に魅せられて四十数年間、毎夏そこで生活したという穂苅三寿雄の山岳写真を紹介している。

 オリジナル・プリントや多彩な資料で、山岳写真史に名を刻んだ2人の偉業を検証しようというもの。冠は登山家たちが難易度の高い登山を目指すアルピニズムに向かい始めた時期に、森林と渓谷の魅力を追い続けた人物。

 日本固有の山の魅力を追求し続けた意義は見直されてよい。「劔の大滝を囲む大岩壁」(大正15年6月)、「奧千人谷の吊り橋」(大正14年8月)など、名作の数々に圧倒される。

 「黒部のような原始的な渓は、ひとたびその奧へ入ると、それからそれへと魔術の紐でたぐられるように、日を忘れ月を忘れてその神秘の奧を探りたくなる」。冠は数多くの著作も残し「黒部の主」の異名をとった。

 一方、穂苅が槍ヶ岳に初めて登ったのは大正3年。以後、上高地・槍ヶ岳一帯の登山道を整備し、同6年に槍沢小屋を開設。続いて大槍小屋と肩の小屋も建設した。「雲晴れる槍ヶ岳」(昭和初期)はその代表作だ。

 「言わば私の生活は山――特に槍ヶ岳と共に終始したことになってしまったが、今日顧みると本当に生き甲斐のあった幸福な人生であるとつくづく憶う」と回顧する。二人は峰と渓という、二つの山岳美を見せてくれるのだ。5月6日まで。