【上昇気流】ジャズ巨匠と和洋の音色


ジャズベースの巨匠ロン・カーターさんが、米国のニューヨーク、カーネギーホールで、日本人三味線奏者の史佳さんと「荒城の月」などを共演した。都合が合わなかったり、新型コロナウイルス禍で中止したりで、三度目の正直だそうだ(小紙10月19日付)

史佳さんが演奏するのは竹山流津軽三味線。初代の高橋竹山は、門付け暮らしの中で稽古に励み、独自の奏法を生み出して地方の芸を全国に広めた。厳しい風土で鍛えられた強さと激しさが特徴だ

史佳さんはそれを世界に示すことになった。言葉と違って、音楽で使われる言語は通訳が必要なく、すぐ和合することができ、東洋の楽器と西洋の楽器との共演もごく普通になっている

三味線奏者の史佳さん、ジャズ巨匠と和洋の音色

17日、米ニューヨークのカーネギーホールでジャズベーシストの巨匠ロン・カーターさん(左)と協演する三味線奏者の史佳さん(写真家GION氏提供・時事)

カーターさんはもとはクラシックのチェロ奏者で、後にコントラバスに転向。特にJ・S・バッハに造詣が深い。黒人だったためにオーケストラへの入団ができず、ジャズベーシストとなった

ジャズベースによるバッハ演奏は「無伴奏チェロ組曲」はじめ数々あるが、古典的演奏からジャズへの移行がごく自然で、端正で素朴な味わいがある。バッハは宮廷風で、カーターさんは現代都市風▼だがその清らかさは変わらず、聖なる音の空間をつくる。紛争の絶えない現実世界だが、音楽は文化と国境の壁を越えて和合する。未来の世界を暗示しているかのようだ。2人の共演こそ聴いてみたかったけれど、奏でる音は気流子の心の中で鳴り響いている。