「早春」「秋日和」など小津安二郎監督作品の…


 「早春」「秋日和」など小津安二郎監督作品のプロデューサーを務めた山内静夫さんが96歳で亡くなった。父親は白樺派の作家里見弴。映画の仕事を離れてからも小津芸術の語り部として活動を続けた。

 毎年、小津の命日の12月12日に鎌倉・円覚寺近くの料亭で松竹関係者、小津の親族やファンが集まる「小津会」が開かれる。そこでも中心は山内さん。昨年は中止となったが一昨年の会では、元気そうに小津の思い出を語っていた。

 各紙の訃報の中では、日刊スポーツの村上幸将記者の記事が目を引く。2012年に世界の映画監督358人が選ぶ最も優れた作品に小津の「東京物語」が選ばれた時、山内さんは小津がキャリア後半期に口にした次のような言葉を紹介した。

 「俺の映画はね、外国の人は分からないと松竹なんかは思っているのかも知れないけれど…とんでもない話で、俺の映画は、どこの国でも分かる。親子の関係の中でもプリミティブ(根源的なもの)だけを選んでやっているから、どこでも通用するんですよ」。小津の密(ひそ)かな信念がうかがわれるだけでなく、小津芸術の本質に触れる言葉だ。

 「東京物語」「晩春」など、どれも親子関係が中心テーマである。小津映画が国を超えて人々の心を動かす背景には、親子関係という人類普遍のテーマを掘り下げたことがある。

 山内さんは小津の思い出をいろいろ語っているが、中でもこの証言は最も貴重なものだと言えよう。