新型コロナウイルスの感染拡大で海外渡航の…


 新型コロナウイルスの感染拡大で海外渡航の自粛が続く中、オンラインの「バーチャルツアー」が人気という。旅行会社エイチ・アイ・エス(HIS)が有料ツアーを募集している。果たして新しい旅のスタイルを提供できるのか。

 試しにいくつか無料サイトを覗(のぞ)いて観(み)た。悪くないと思ったのが、イタリアのジェノバの街を散策するもの。ロックダウンが解除された昨年夏頃の映像で、何の説明もなく、ただ通行人の視線で通りの風景が変わっていく。

 撮影の工夫で視聴者が町を実際に歩いているような気分になるNHKの「世界ふれあい街歩き」に少し似ているが、音声による解説はなく、聞こえてくるのは車の音や通行人の話し声、子供たちの声だけだ。

 それがかえって自分が通りを歩いているような気分にする。案内人の解説や音楽が付いていると臨場感がなくなってしまう。

 もちろんバーチャルツアーは、コロナ禍での一時的な代替策にすぎないのかもしれない。しかし、コロナ収束後は実際にそこに行ってみようという人も少なからず出てくるだろう。旅行会社もそれを計算に入れているに違いない。

 地中海を舞台にした歴史作品を多数書いている塩野七生さんが、こんなことを書いている。「地中海は、インターネットでは絶対にわからない。陽光を浴び、風に吹かれ、大気を胸深く吸う必要がある」(『想いの軌跡』)。やはり行って、そこの空気を吸わないと旅とは言えないのだ。