東西冷戦を背景にしたスパイ小説の巨匠、英国…
東西冷戦を背景にしたスパイ小説の巨匠、英国作家ジョン・ル・カレ氏が89歳で亡くなった。カレ氏はオックスフォード大を卒業後、英国内情報機関、保安部(MI5)に入り、のち対外機関の秘密情報部(MI6)に転属して、西ドイツなどで情報活動に従事。その経験をもとに『寒い国から帰ってきたスパイ』などの名作を書いた。
英国のスパイ小説作家には、もともとスパイだった人が少なくない。007シリーズを書いたイアン・フレミング、そして現代英文学を代表する作家として知られるサマセット・モーム、グレアム・グリーンも諜報(ちょうほう)部員として海外で活動していた。
モームには『英国諜報員アシェンデン』、グリーンには『ヒューマン・ファクター』というスパイ小説の傑作がある。英国がスパイ小説の本場になるのも当然だ。
ジェームズ・ボンドの上司のモデルの生涯を描いた『007のボスMと呼ばれた男』の作者アンソニー・マスターズは『スパイだったスパイ小説家たち』(新潮選書)で、作家とスパイの間には「ある種の技術的、情緒的類似性」があると言う。
「なぜなら作家は生まれながらのスパイであり、絶えず情報を集めグレアム・グリーンの表現を借りるならば、しばしば『危険な綱渡りのような』生活をしているからである」。
翻って日本には、スパイ小説の傑作は生まれていない。スパイ防止法もない国からは今後もその手の傑作は期待できそうにない。