古希を過ぎた団塊の世代が若者だった1970年…


 古希を過ぎた団塊の世代が若者だった1970年代に人気を集めたジャズなどの評論家・植草甚一氏(79年12月没)には、こんな伝説がある。パリやニューヨークに一度も足を踏み入れたことがなかった時に、まるで何回も歩き回ったかのように、通りや街中の光景、路地裏にある洒落(しゃれ)たカフェのことなどを綴(つづ)った。

 ファンが氏のエッセーにある道案内に従って歩くと、街中の目印や店などがその通りにあったというエピソードが語り継がれている。

 氏の書き物を支えたのは、英語本や地図などの膨大な読書量だったという。読書はいつでも、私たちを現実に生活する時間と空間から飛翔させてくれる。

 行ったこともなく、その時代に生きていなくても、歴史を遡って中世の世界にワープしたり、宇宙飛行士の味わった未知の世界に分け入ったりすることもできる。新しい知識を得て好奇心を満たし、心をリフレッシュできると、新たな活力が生まれるのである。

 来月3日の文化の日を中心とした9日まで2週間の読書週間はきょうから始まる。今年の標語は「ラストページまで駆け抜けて」。読書の秋を機に“本を読むことのススメ”を図る。初日は「文字・活字文化の日」でもある。

 中国由来の新型コロナウイルス禍の中、テレワークなどデジタル化の促進が推奨される。一方で活字文化は衰退が危惧されている。改めて、書籍や新聞は教養豊かな人間性の形成に不可欠であることを強調しておきたい。