「遠くで海氷が動いた重低音が響き、その…


 「遠くで海氷が動いた重低音が響き、その音で目を覚ます。やがて破壊のエネルギーが波のような力で自分の元に伝わると、テントの周囲で重機が走り回っているような爆音が恐ろしく、安心して寝てもいられない」。

 2012年と14年の2度にわたって北極点を目指して冒険の旅をした荻田泰永さんが、著書『考える脚』(KADOKAWA)で、氷上を行く怖(おそ)ろしさを伝えている。氷の下では海流が渦巻き、海氷を破壊し、引き裂いて、無数の割れ目を作る。

 荻田さんは南極点に徒歩で到達した時の冒険と比べて、30倍以上も難しかったという。極寒、ホッキョクグマの襲来、乱氷、揺れ動く海氷、リード(割れ目)があり、防水ドライスーツやカヤックまで準備した。

 北極海の海氷面積は、地球温暖化によってますます縮小しつつある。今年9月15日には年間最小になったが、12年に次いで観測史上2番目に小さかったことが分かった(小紙9月24日付)。

 春にはシベリアの気温が高かった上、8月の北半球の陸地と海面を合わせた平均温度が統計史上最高だった。氷が溶けると船舶が航行しやすくなり、ロシアは北極圏での軍備を強化しつつある。

 天然資源を確保し、影響力を強めるためで、トランプ米政権も北極政策の見直しを進めている。一方、地球は大気圏に保護された掛け替えのない人間の暮らしの場であり、美しい地球を回復するための国際協力が求められる。