「ヴァケーション」「人形の家」などの…


 「ヴァケーション」「人形の家」などのヒット曲で知られる歌手の弘田三枝子さんが亡くなった。73歳だった。小学生の頃から米軍キャンプで歌い、今年でデビュー60周年を迎えていた。

 〽V・A・C・A・T・I・O・N 楽しいな――で始まる「ヴァケーション」(1962年)は、コニー・フランシスのカバー曲で、20万枚のヒットとなった。英語のスペルから始まる歌い出しやパンチの利いた歌声は鮮烈だった。小学生だった気流子も、日本人離れした女性歌手が出てきたという印象を持ったのを覚えている。

 当時日本は高度経済成長の真っただ中。池田勇人内閣が所得倍増計画を掲げる中、この歌は豊かさへの憧れを掻(か)き立てた。

 まだ国民の多くは働くことに一生懸命で、長期休暇を楽しむ雰囲気ではなかった。それでも後の登山やスキーブームを準備したという点で、この歌は観光振興に一役買ったと言える。何よりヴァケーションという言葉を植え付けたのは大きい。

 弘田さんが亡くなった21日は、通常であれば夏休みに入る時期。抜群の歌唱力を持った歌手が、時代を歌い、時代をつくったことを思い起こさせるための天の配材かもしれない。

 新型コロナウイルスの感染拡大でテレワークが広がる中、政府は温泉などリゾートに宿泊しながら仕事をする「ワーケーション」を奨励しようとしている。ワークとヴァケーションを合わせたものだが、まずは言葉の普及から始めなければならない。