芭蕉の句<おもしろうてやがて悲しき鵜舟哉>…
芭蕉の句<おもしろうてやがて悲しき鵜舟哉>で知られる清流長良川(岐阜市)の鵜(う)飼いは5月に始まるが、今年はスタートが例年より10日ほど遅れ下旬からに。鮎(あゆ)釣りの方は解禁が6月から。獅子文六はこの月を「鮎の月」と呼んで大好物を楽しみにした。
だが、今年は武漢コロナウイルス禍で観光客が出控えた上に、梅雨入りから豪雨に襲われた。増水で鵜飼いの観光遊船が流されたり、休み日が多かったりと散々だ。関係者の悲鳴が聞こえてくる。
鮎釣りも、川漁師が7月に川に出られたのは5、6日。泥水と増水による水冷えのため、たくさんの鮎が死んだという。市場では出荷される鮎が少ないので、びっくりするような高値が付いている。
いずれも西日本にある鮎の名産地の高津川(島根)、太田川(広島)、川辺川(熊本)でも事情は変わらない。それでも食通には、まさに旬の鮎の塩焼きの淡泊な味と香りは恋しかろう。
川魚の女王とか香魚(こうぎょ)とされる鮎は、育った川の水と餌の苔(こけ)によってスイカやキュウリに似た香りがするし、味も産地により微妙な違いがある。通はその味わいを見分け、賞味するとか。
<鮎と蕎麦(そば)食ふてわが老い養はむ>の句がある文六先生は「6月」。「味に至っては、たしかに岐阜の人たちの自慢するとおりだ」(『魯山人味道』)と書く食通人の北大路魯山人は、鮎は「7月がよい」と推奨した。育ち盛りの7月の鮎こそが美味というわけであろう。これからだ。