5月への讃辞(さんじ)から。清少納言は…
5月への讃辞(さんじ)から。清少納言は<節(せち)は、五月にしく月はなし。菖蒲(さうぶ)、蓬(よもぎ)などのかほりあひたる……>(枕草子36段)と五節句の最良月に挙げた。
歌人、与謝野晶子はその詩「五月礼讃」で<五月は好(よ)い月、花の月、/芽の月、香の月、色の月、/ポプラ、マロニエ、プラタアヌ、……>と、こよなく愛する言葉を散りばめた。「カエルの詩人」と称される草野心平にも「五月」と題する一編がある。5月は<樹木や花たちの溢(あふ)れるとき>で<小鳥たちの恋愛のとき>なのだ。そして<雨とうっそうの夏になるまえのひととき>だとつづった。
自由律の俳人、住宅(すみたく)顕信(けんしん)はただ天上を見上げて一句。<見上げればこんなに広い空がある>。無限に広がる青い空に大きな希望を膨らませ、あしたへの力を得ていたのかもしれない。
今年の5月は、野や山、川、海に繰り出した人々が鮮やかな新緑や爽やかな薫風を満喫し、楽しげにしゃべり笑い合う風景が消えた。自然は変わらないけれど、行楽地は無人と化した。新型コロナウイルス禍阻止のための政府の緊急事態宣言に基づく外出自粛要請を、国民の大半は受け入れてきたからである。
宣言の継続で最後に残った東京など首都圏1都3県と北海道もきのう解除された。だが、これでゴールではない。感染再拡大を防ぎつつ、深刻な打撃に沈む経済を立て直し、日常生活を取り戻していく。昨年は令和スタート、今年は新型コロナ禍克服スタートの5月である。