今村翔吾さんの江戸の武家火消しシリーズ…
今村翔吾さんの江戸の武家火消しシリーズ『羽州ぼろ鳶(とび)組3』(祥伝社文庫)に、川柳から生まれた江戸っ子気質の、こんな諺(ことわざ)が出てくる。「――『江戸っ子は五月(さつき)の鯉(こい)の吹き流しってもんさ』/源吾は苦々しく笑った。正式には後に、――口先ばかりではらわたは無し。/と続く」。
きょうは端午の節句で「こどもの日」。男子の成長を祝い鯉のぼりを掲げるのは、滝登りで龍になるという鯉の逸話に因(ちな)み、男の子の立身出世を託す武家の風習のなごりである。今は菖蒲(あやめ)や蓬(よもぎ)を軒に挿すこともあまり見掛けなくなり、ちまきや柏餅をいただくだけ。
また、きょうは季節が夏に入ったことを告げる二十四節気の立夏と重なる。20日は万物に生気が充満するという小満(しょうまん)。これから自然は“緑の月”と言ってもいいほどに緑豊かに染まっていく。松尾芭蕉は日光・二荒山(ふたらさん)に登って<あらたふと青葉若葉の日の光>と詠嘆した。
初夏の陽光に山全体が荘厳なきらめきを放つ感動を表現した。もう一人、江戸時代の山口素堂(そどう)のよく知られる句に<目には青葉 山郭公(ほととぎす) 初鰹>がある。当時、1本が今の4万円以上に相当する初鰹に、青葉を並べた素堂は緑にあふれる初夏を喜び詠んだ。
スーパーにはカツオのタタキが並ぶ。日光に行かなくても庭や公園の身辺にある深まる緑が、新型コロナウイルスの感染拡大による閉塞感に縮む心を癒やし励ましてくれるに違いない。
腹に悪気を持たないのが江戸っ子だ。