「現代は確かに狂った時代である。異常な…
「現代は確かに狂った時代である。異常なもの、反常識の世界に対する喜び、否定的な、破壊的な要素にのみひきつけられる心、すべてがアブノーマルであり、そのアブノーマリティは限度を知らない」。
この文章は、聖心女子大学の教授だった故木間瀬精三さんの著書『死の舞踏』(中公新書、昭和49年)の冒頭の一節。この本は14世紀のイタリアで蔓延(まんえん)した黒死病(ペスト)から始まる中世末期史論だ。
新型コロナウイルスの世界的な蔓延で、途方もない数の罹患者と死者を出し、日ごとにその数が報告されている。そんな現代社会の苦悶(くもん)を目前に、かつてインタビューした木間瀬さんの言葉を思い出す。
「歴史学は大きく考えると一つの人間学です」と言い、ペアの著書『幻想の天国』とともに、ルネサンスを「美しい幻想の、かぐわしい香りに満ちた世界」と「死の恐怖と闘争の世界」として描き出した。
現代とは様相が異なるが、木間瀬さんは現代に共通する人間の在り方を見ていたようだ。そしてわれわれが経験してきた異常な時代として、封建社会や貴族社会の崩壊、現代の市民社会の弔鐘を挙げる。
「われわれが現に見聞きしている異常なものとは、この社会の死のアゴニイに他ならない」とも記す。苦悩、苦悶があるからといって、絶望するには及ばないという。人類が滅亡するわけではなく、「旧きものは片づけられ、新しいものに場所を空けなくてはならない」と教示するのだ。