「本当の大学者ほど、何がわからないかを…


 「本当の大学者ほど、何がわからないかをきちんと言ってくれる」と立花隆氏が語っている(『知の旅は終わらない』文春新書/近刊)。「わかっていること」と「わかっていないこと」の区別をはっきり認識しているのが大学者だということだ。

 大学者は自分の研究分野だけではなく、その領域全体の状態をも把握しているとした上で、ノーベル賞学者の利根川進氏(1987年、医学生理学賞受賞)の発言を立花氏は紹介している。

 研究の進展情報を常につかんでおくことが絶対に必要と利根川氏は言う。それを知らずにいると、1年前に結論が出ていることをまだ追い掛けていることになって、時間のムダになる。

 凡庸な学者は、どうでもいいことを追い掛け、学者生活を終えてしまうというのが利根川説だ。自分の研究が、科学の発展にどれだけ本質的に資するかを見極めることができているかどうかがポイントになる。

 学者に関する従来の理解では「専門バカ」であることが重視されてきた。だが、どうやらそうではなく、自身が直面するテーマを超えた自然科学全体の次元に立った上での研究が求められるというのが、科学の最前線のようなのだ。

 地道にやるのも必要だが、「読み」もカンも戦略も動員した上での研究が必要というのが、自然科学の世界の常識になっている。政治家や経営者にも通じる能力が科学者にも求められるとすれば、科学者像も変わらざるを得ないようだ。