初音という言葉がある。虫や鳥たちがその…


 初音という言葉がある。虫や鳥たちがその年の初めに鳴く声のことだが、俳句では特にウグイスについて使われる。もうその季節で、しばらくは耳を傾けて聴き入りたい鳴き声だ。

 他の鳥たちと違って、とりわけ美しく、テレビや新聞で伝えられる陰惨で憂鬱(ゆううつ)になるような出来事から一瞬にして、清澄無垢(むく)な天上世界に誘(いざな)ってくれる。優美で、典雅で、気品ある鳴き声なのだ。

 随筆家の故串田孫一さんは『博物誌』(社会思想社)の中でその囀(さえず)りについて論じている。「それは大変いいものだが、うまく鳴けないのが庭に来ていると、こっちはつい、どっこいどっこいと力を入れてしまって息が詰まる」と批評。

 まるで音楽評論のようだ。確かに上手(うま)い下手がある。山中でかれらの歌を聴いたことがあるが、ケキョケキョと言ったり、ホーと言って後が続かなかったりして、まるで小学生の笛の習い始めのよう。

 西洋では、鳥類研究家で作家の細川博昭さんの『鳥と人、交わりの文化誌』(春秋社)によると、15世紀以降、ウソ、サヨナキドリ、カナリアなどさまざまな鳥が飼育され、鳴き声が採譜されて音楽作品が作られたという。

 そればかりかリコーダーを使って、飼っている小鳥に曲を教える楽しみまで普及した。1717年にロンドンで出版された『小鳥愛好家の楽しみ』という楽譜は、小鳥に曲を覚えさせる教本として書かれたもの。ウグイスの囀りも音楽作品として聴いてみたいものだ。