「雨ふれば少しあたゝか蕗(ふき)の薹(とう)」…


 「雨ふれば少しあたゝか蕗(ふき)の薹(とう)」(高田風人子)。蕗の薹とはキク科フキ属の多年草のフキの花芽であり、春になるとこの花芽を使ってフキみそを作る。フキの苦みがいかにも冬から春への季節の変化を表すような味わいがある。

 蕗の薹は春の季語で、稲畑汀子編『ホトトギス新歳時記』には「蕗は雪の残っている野辺や庭隅に、卵形で淡緑色の花芽を出す。(略)柔らかい苞(ほう)に幾重にも包まれており、煮たり汁物にしたり、練味噌にして食べると、ほろ苦く早春の香りがする」とある。

 気流子も春になるとフキみそを待ち望むようになったが、それは大人になってから。幼少時代は、苦い物をおいしく感じる味覚はなかったのだから、いつそう思えるようになったのか。思い出しても分からない。

 ただ、食べることが楽しみになったのは、おそらく大学に入学して東京で単身生活を送るようになってからだろう。それほど大学受験のストレスが大きかったのかもしれない。冬から春への季節は体調管理に悩まされる時期でもあり、風邪を引きやすい。

 「鼻少しゆるみしばかり春の風邪」(高浜年尾)。季語にも「春の風邪」がある。『ホトトギス新歳時記』には「つい油断をして戻る寒さに風邪を引いてしまうことがある。冬と違って軽く見られがちであるが案外治りにくい」。

 現在の新型コロナウイルスの感染を見ると、春の風邪ならばまだましかと思えるほどで、フキみそがますます苦く感じられる。