社員70人のうち36人が死亡した京都アニメ…


 社員70人のうち36人が死亡した京都アニメーション放火殺人事件で、京都市消防局は、生存者に聞き取り調査をして避難行動の全容を取りまとめた。なぜ、これほど被害が拡大したのか。そこには、煙の恐怖が浮かび上がってくる。

 1階の女子トイレに入った3人は、扉を閉めたため火や煙が入ってくるのが遅れ、出火から6分後に外から窓の格子が外され助かった。ある人は呼吸をしようと必死の思いで壁沿いに移動し、はしごで脱出できた。半面、死亡者のほとんどは有毒ガスを吸い、体が動かなくなってしまったとみられる。

 1982年、東京・永田町のホテルニュージャパンで火災が起き、逃げ遅れた33人が死亡した。駆け出し記者として取材し、避難の要諦について専門家が「煙に巻かれたら、濡れタオルを鼻と口に当て、這(は)うように避難口に向かえ」と厳しい口調で繰り返したのを今も覚えている。

 現在、ホテルなどの大規模施設やオフィスビルははるかに数を増したが、火災の煙の怖さを知っている人は、増えただろうか。煙で隣家に文句を言われ、たき火もご法度という時世だ。現代人は、煙の存在に縁がないのではないか。

 煙突から出る煙や臭いさえ街では異物として扱われ、それを覆い隠すため、都市のデザイン理論が一世を風靡(ふうび)している。

 人々が住む場所にはクリーンなものだけが集まっている。前代未聞の凶悪事件の結末は、都市生活の危うさをも暗示している。