「雪嶺の中まぼろしの雪嶺か」(岡田日郎)…


 「雪嶺の中まぼろしの雪嶺か」(岡田日郎)。俳人協会が発行している「俳句カレンダー」の12月に掲載された作品だ。色紙に4行に分けて書かれているが、グレーの帯が斜めに入っている。

 カレンダーを見るたびに句も目に入り、心に染みる。ガスのかかった山中で、嶺の中にもう一つ見える嶺は幻なのだろうかという意味だ。色紙の模様がその幻のように感じられてくる。

 気流子も雪山で同じような情景を何度も目にしたことがあるが、作者の句は独創的。乗田眞紀子さんが「俳句文学館」(12月5日号)にその鑑賞を載せている。若き日に谷川岳の縦走中に見た光景だという。

 「雪嶺の中まぼろしの一雪嶺」の句を得たが、近年推敲(すいこう)の上、訂正したそうだ。「『か』の一字の切れの魔力によって骨格の正しさを備え、写生を突き抜けた句へと新たな命が吹き込まれた」と解説。

 第26回俳人協会俳句大賞の受賞作も「山男」の作品だ。「沖」顧問、杉本光祥さんの「一本の杭となりたる滝行者」。応募総数は6505句。選者の一人、大竹多可志さんは、宗教的な滝浴びを「一本の杭として見て取った作者の観察眼は厳しい。まさに心眼である」と称(たた)えた。

 杉本さんは学生時代から山旅に親しんできて、今も継続している。千田百里さんの紹介によると「ご夫妻揃って地球を制覇してしまうのではないかと思えるほどの旅好きである」。心の門を開いたとき自然は人に何かを語り掛けてくる。