「自分の個性と違う役を演じる場合、困る…
「自分の個性と違う役を演じる場合、困ることはないか?」という質問に対し、女優の奈良岡朋子さんが「違う自分は実は自分の中にあったことに気づく」と答えていた。民放テレビで放送された番組だが、興味深かった。もともと自分の中にあったのだから、多少時間はかかるとしても探せば見つかる。だから困ることはない。
山崎努著『俳優のノート』(文春文庫)には「役を生きることで、自分という化けものの正体を発見する」という記述がある。奈良岡さんの演技論と流れは同じだ。
違う人物を演ずるのは、人類の歴史と共に深い。だから演劇論・演技論は面白いのだが、昨今この種の「芸談」は、テレビ(特に民放)ではすっかり見掛けなくなった。
スキャンダル、結婚、出産、死去は必要以上に話題になるが、肝心の「芸」の話題は外される。奈良岡さんの発言は、阿川佐和子さんの質問に答えたものだ。阿川さんだから、奈良岡さんの芸談を引き出したのだが、一般の司会者であれば、そうはならなかっただろう。
テレビ局は、視聴者は芸談なんかに興味はないと決め付けているように見える。「だったら時間のムダ」との判断で、その種の問答はしないという習慣が生まれた。
そうした傾向はますます進行しているのだが、何かの拍子に奈良岡さんの発言のような面白い話が出てくることがある。「視聴者はその程度のもの」という思い込みを疑ってみることも時には必要だ。