マネ最晩年の傑作<フォリー=ベルジェール…
マネ最晩年の傑作<フォリー=ベルジェールのバー>を観(み)ようと、上野の東京都美術館の「コートールド美術館展 魅惑の印象派」に足を運んだ。15日が最終日で、この作品だけでも観られればと駆け込んだが、セザンヌやルノワールの傑作も多数あり、得をした気分になった。
ロンドンのコートールド美術館は、レーヨン産業で巨富を築いた英国の実業家、サミュエル・コートールドが寄贈したコレクションが始まり。セザンヌなど見向きもされなかった時代、その美しさに魅了され収集した。粒よりの絵画が揃(そろ)っているわけである。
<フォリー=ベルジェールのバー>の前には人だかりができていた。フォリー・ベルジェールはパリのミュージックホールで、絵はバーのカウンターに立つメイドを中心に背後の鏡に映った客たちを描いたもの。見事な筆さばきでテーブルの酒瓶や花、果物を描写し、まさにマネ芸術の集大成となっている。
三浦篤氏の解説によると、当時バーのメイドは娼婦にもなった。鏡には後ろ姿のメイドに話し掛けるシルクハットの紳士が映っている。
メイドの表情は交渉を迫られた困惑を表しているという研究者もいる。ただ、その表情は孤独でうつろな感じがする。
三浦氏は、マネについて「一義的な物語性を拒否する絵画を描き続けた」とし、メイドの表情は「見る者のまなざしに応じて、無数の解釈に向かって開かれて」いるという。優れた絵画は時に鏡のような働きをする。