北制裁船入港の波紋
地球だより
平昌冬季五輪の氷上競技が行われている江陵市から車で40分ほどの場所に墨湖(ムッコ)港というイカ釣り漁で有名な港がある。ここから少し離れたフェリーターミナルの埠頭に横付けされたのが先日、北朝鮮芸術団を乗せて来た貨客船「万景峰(マンギョンボン)92号」だ。かつて在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)がこの船を使ってせっせと現金やぜいたく品を運んでいたが、今では日韓両国がそれぞれ独自の制裁対象に指定しているいわばご法度船である。
入港時には保守派が激しい抗議デモを行い、制止する警官隊とぶつかって大騒ぎだった。船に近づくには隣接する大手セメント会社の工場敷地に入るしかないが、入り口では警察が関係者以外の出入りを統制していた。ある地元住民は「祖母は6・25(朝鮮戦争)で以北(北朝鮮)から避難してきた。ああいう船に来られてもちょっと…」と首をかしげた。
制裁破りの船を目の前にした気持ちは決していいものではない。数年前、拉致問題をめぐる日朝交渉で北朝鮮が日本に懇願してきた条件の一つがストップしていたこの船の往来再開だったという。「五輪だから」「南北融和が大事だから」と一時の事情を理由に例外措置として入港を認めてしまえば制裁網に穴が開く。残念ながらそんな懸念の声は金正恩氏に平壌訪問を促されたことで浮足立つ今の文在寅政権の耳には入りそうにない。
船はこれも制裁違反となる燃料用灯油と暖房用軽油の支援を要求する図々しさを見せ、結局もらわずに帰って行った。韓国がどこまで制裁を破るか試すかのように…。
(U)