米議会で法王は安倍首相に負けた!


 訪米中のローマ・カトリック教会最高指導者フランシスコ法王は24日、ワシントンの米議会の上下両院合同会議でローマ法王としては初めて演説をした。当方は同日午後4時頃(ウィーン時間)から、オーストリア国営放送のライブ中継で法王の演説を聞いた。

 フランシスコ法王は時たま、用意されていた水を飲みながら聴衆の米議員たちの方に顔を向け、微笑む余裕すら見せつつ、演説テキストを見て、ゆっくりと語った(ちなみに、米・キューバ10日間訪問で、フランシスコ法王は18回の演説を予定)。

 78歳のフランシスコ法王の演説を聞きながら、安倍晋三首相の米議会演説(4月29日)を思い出した。安倍首相は徹夜で英語による演説を準備したといわれている。その甲斐があって、演説は米国内で高く評価され、大成功に終わった。

 米議会の演説は国連総会の基調演説とは舞台だけではなく、その政治的重みも違うといわれる。どちらが、政治家にとって名誉かはそれぞれの立場で違ってくるだろうが、国連総会の演説の場合、国家の首相や大統領であるならば、演題に立つことができるが、米議会となれば、招待されない限り、出来ない。実際、ローマ法王と同時期に訪米中の中国の習近平国家主席は米議会に招待されていないし、ロシアのプーチン大統領も同様だ。安倍首相はそれらの指導者に先駆けて米議会で演説したわけだから、少しは自慢できるかもしれない。

 さて、ローマ法王の場合、演説の最初の段階で、米国の歴史に言及し、「米国は自由の国であり、勇気ある人たちの故郷だ」と外交辞令を飛ばした時、ほぼ全聴衆者が立ち上がって法王に拍手を送った。しかし、演説が進み、法王が堕胎問題や家庭問題に言及した時、聴衆者の議員の反応は分かれた。特に、「家庭が今日、内外ともに危機に直面している」と指摘した時、同性婚を合憲と判断した米国では共和党議員の間から拍手があったが、拍手せず座ったままの議員(多分、民主党委員)も見られた。法王が死刑問題や武器輸出問題で米国の再考を促した時、聴衆者の議員の反応は明らかに分かれた。

 フランシスコ法王は欧州で目下、多くの難民・移民たちが殺到していると述べ、「自分は移民の子供であり、あなた方の中の多くもそうだったろう」と語り、移民たちに「人道的、公平で、兄弟愛に基づく対応」を求めた時、移民受け入れに反対の共和党議員は渋い顔をして拍手せずに聞いていたのが印象的だった。

 産経新聞電子版によれば、安倍首相の45分間の演説で計14回のスタンディングオベーションがあったという。日米両国の関係深化と世界の平和に積極的に責任を担う決意を表明し、米国の支援に感謝し、両国の絆を強調した安倍首相の演説には強い反対の意思表示をする議員はなく、全体的に好意的な反応で終始していた。

 その点、フランシススコ法王の演説は、議会が民主党と共和党に2分しているように、その反応も複雑であり、あからさまに嫌な顔を見せる議員もいた。法王の1時間余りの演説で一環して拍手を送った議員はなく、そのテーマごとに拍手したり、無視したりして聞いた議員がほとんどだっただろう。

 「米国とあなた方の上に神の祝福がありますように」と言って演説を終えたローマ法王はバイデン副大統領とベイナー下院議長(両者はカトリック信者)の方に顔を向けて軽く挨拶し、足早に議会を後にした。

 演説の内容や目的は全く異なっていたが、安倍首相の演説はフランシスコ法王のそれより拍手とスタンディングオベーションの回数で明らかに上回っていた。換言すれば、米議会は同盟国の政治指導者への対応とは異なり、道徳・倫理的観点から間違いを諭す宗教指導者に対しては複雑な反応を見せたわけだ。

 なお、安倍首相はフランシスコ法王を日本に招待しているという。東京でフランシスコ法王が安倍首相の前で演説する場面を見たいものだ。法王の口から辛辣なアドバイスが飛び出すかもしれない。

(ウィーン在住)