コックピット内の「操縦士の事情」


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墜落したドイツのジャーマンウィングス機(ウィキぺディアから)ュー島(代表撮影・時事)

 インド国営航空エア・インディア機のコックピットで今月5日、機長と副操縦士が喧嘩を始め、殴り合いとなったが、飛行機は目的地の首都ニューデリーに無事到着したというニュースが流れてきた。

 現地からの情報によると、西部ジャイプールからニューデリーに向かう機内で機長と副操縦士が離陸前の手順などで口論となり、副操縦士が機長に殴りかかったという。ジャーマンウィングス機の墜落(3月24日)があった直後ということもあって、続けざまに起きたコックピット内の出来事に多くの人々は衝撃を受けている。

 ドイツのジャーマンウィングス機(エアバスA320、乗客144人、乗員6人)の場合、回収したブラックボックスなどの解析の結果、精神的な病を抱えていた副操縦士が、機長がトイレに行った直後、コックピットを閉じ、機長を締め出して、高度を下げてフランス南東部のアルプス山中に墜落させた。これまでの調査では、副操縦士の自殺行為が墜落原因と見られている。

 ところで、機長や副操縦士の人災(自殺行為)が原因で墜落した旅客機はドイツのジャーマンウィングス機が初めてではない。最近でも3件、起きている。以下、独週刊誌シュピーゲル(3月28日号)の記事から紹介する。

 ①2013年11月29日、モザンビークの首都マプト発、アゴラの首都ルアンダ行のLAMモザンビーク航空470便(エンブラエル190)の墜落。副操縦士がトイレに行った直後、機長がコックピットを閉じ、機体の高度を下げた。副操縦士がコックピットに入ろうとしたが、戸が開かない。ハンマーで戸を叩き続け、やっと開いた時、もはや遅すぎた。飛行機は地上に墜落。乗員乗客33人は全員死んだ。ジャーマンウィングス機の場合と状況は酷似しているが、LAM航空の場合、墜落させたのは副操縦士ではなく、機長だった。

 ②1999年10月31日、ニューヨーク発カイロ行のエジプト航空990便(ボーイング767)の墜落。大西洋上を飛行中、コックピット内で副操縦士が突然、操縦桿を前方に向け、エンジン出力を下げた。機長が慌てて墜落を防ぐため止めようとし、コックピット内で殴り合いが始まったが、正気を失った副操縦士が機長を倒すと、「アラーを信じる」と叫んで機体を墜落させた。搭乗していた217人は死去した。

 ③1997年12月19日、シンガポールのシルクエア航空185便(ボーイング737-300)の墜落。旅客機が上空1万600メートルから突然、急直下に落ちた。104人の乗員乗客は全て死んだ。国家運輸安全委員会(NTSC)は「原因不明」としたが、機体製造元を管轄する米国側は、私生活に問題があった機長が故意に飛行機を垂直に急降下させ、墜落させたという。

 ④2014年3月8日、マレーシアのクアラルンプールから北京に向かっていたマレーシア航空370便(乗員乗客239人)が突然、レーダーから消えた。機体の技術的原因も排除できないが、調査関係者は機長の自殺行為の可能性があるとみている。マレーシア政府は今年1月、機体が見つかっていないことから乗員・乗客は全員死亡したと結論を下した。

 以上、最近の墜落4例を紹介した。機長、副操縦士が意図的(自殺行為)に飛行機を墜落させた疑いのある墜落事故は残念ながら決して珍しくないわけだ。コックピットに座る2人の精神状況が今後、技術分野の改善と共に、旅客機の安全飛行のうえで重要な要因となることが分かる。

 独紙フランクフルター・アルゲマイネは、「パイロットは一般的によく訓練され、教養も高いが、人間は天使ではない。疲れたり、ストレス下では間違いを犯す」と述べていたが、コックピット内の「操縦士の事情」を誰が把握し、それを管理できるか……非常に難しい課題に航空会社は直面しているわけだ。

(ウィーン在住)