政府の米月探査計画への参加決定に「得意技術での貢献」訴えた読売

◆費用対効果説く日経

 政府の宇宙開発戦略本部(本部長・安倍晋三首相)が、米国が構想を掲げている有人月探査計画に参加する方針を正式に決めた。

 月周回軌道上に新たな宇宙ステーション「ゲートウェー」を建設し、2024年に人類を再び月面に送り込むという「アルテミス計画」で、米国が各国に参加を呼び掛けているもの。既にカナダが参加を表明し、欧州も11月に決定する見通しにある。

 月探査が国際的に関心を高めているのは、水が存在する可能性が高まり、また鉱物やヘリウム3などエネルギー資源に富み、将来の火星探査などの拠点としての活用も考えられているからだ。

 これまでに社説で論評を掲載したのは、読売と日経(いずれも22日付)の2紙だけ。見出しを記すと、読売「得意技術で国際開発に貢献を」、日経「月探査、費用対効果を見極めて」である。

 見出しの通り、日経はいつものように、費用対効果論を展開。「新事業の創出や技術力向上が期待できるというが、巨額投資も必要になる。費用対効果を見極めつつ、賢く役割を果たすべきだ」というわけである。

 そういう日経だが、月の表面の詳細な観測や国際宇宙ステーション(ISS)への物資輸送など、「これまで積み上げてきた経験やノウハウを生かし、さらに技術を磨く機会ともなる」と参加に「意味」を認めないわけではない。

 同紙が「ただ、不安もある」とするのは、米国が3月に月への有人着陸目標を突然に24年への前倒しを決めたり、6月にはトランプ氏が、月探査ではなく「火星、防衛、科学」に予算を使えとツイッターでつぶやいて混乱を生んだからで、「今後も急に計画が変更されるかもしれず、安易に資金拠出などを約束できない」というわけである。

 確かに尤(もっと)もな指摘で、同紙が言うように、他の参加国と連携し、米国がしっかりと責任を果たすよう求め、基地の利用や将来の資源確保についても公正なルールを決める必要があるだろう。

◆読売は積極的に評価

 こうした、やや慎重な日経に対し、読売は冒頭で「将来、日本の宇宙飛行士が月面に立つ時代が来るかもしれない」と明るく語り、日本の参加は、「これまで築かれてきた国際協調の枠組みを維持、発展させるうえで意義が大きい」と積極的に評価。「大切なのは、日本が培ってきた技術や研究成果を今後の月面探査に生かしていくことである」と強調する。同感である。

 日本が培ってきた技術とは、ISSに安定して物資を輸送し続けてきた無人補給船「こうのとり」であり、小惑星の狙った地点にピンポイントで着陸する無人探査機「はやぶさ2」などの技術で、「これらを月着陸船の開発に役立てることが期待される」(読売)からである。

 読売はまた、各国が月に注目し、特に中国が独自に無人探査機の月面着陸を成功させていることから、今回の日本の参加表明には、月を目指す国際的な流れに乗り遅れないようにする意味合いがあろう、とするが妥当な見方である。

 今後の課題は、やはり、同紙も指摘するように、国際的な費用分担である。日本の宇宙関係予算は約3500億円。このうち宇宙開発に関わる宇宙航空研究開発機構(JAXA)を含む文科省の予算は約1800億円で、その中でISS関連に既に約400億円掛けている。本当に「限りがある」(読売)わけで、「過度な負担を背負うことのないよう、政府は米国などと協議していくべきである」(同)。

◆ノウハウ蓄積着実に

 読売も日経同様、米国計画の長期的な見通しには不透明な部分もあるとしているが、「計画の行方にかかわらず、日本として、宇宙開発に関するノウハウの着実な獲得に努めたい」と指摘するが、その通りであろう。

 日ごろ、日本の宇宙開発に積極論を展開する産経や本紙に論評がないのは残念で、聞きたいところである。

(床井明男)