米で広がるコロンブス排除 西洋文明そのものを断罪

《 記 者 の 視 点 》

 米国の首都ワシントンDCの「DC」が何を意味するのか、知らない人も多いと思う。「ディストリクト・オブ・コロンビア(コロンビア特別区)」の略で、米大陸を発見したクリストファー・コロンブスに由来する。つまり、ワシントンDCの名称は、初代大統領ジョージ・ワシントンとコロンブスの2人の功績をたたえているのである。

 そのワシントンで、コロンブスを排除する動きが起きている。10月の第2月曜日は「コロンブスデー」という連邦の祝日だが、ワシントン市は今年、その名称を「先住民の日」に変えたのだ。

 「コロンブスは多くの先住民を奴隷にし、植民地化し、手足を切断し、虐殺した」

 ワシントン市議会で可決された名称変更の緊急動議は、コロンブスをまるでモンスターのように見なし、コロンブスデーは「憎しみと抑圧を永続させるだけだ」と非難したのである。

 コロンブスデーを先住民の日に言い換える動きは全米各地で広がっており、既に10州と100以上の市が名称を変更した。サンフランシスコやロードアイランド州プロビデンスでは最近、コロンブスの銅像が赤いペンキで汚される事件が起きている。

 コロンブスは敬虔(けいけん)なカトリック教徒で、先住民に敬意を持って接していたというのが歴史家の一般的な評価だ。だが、米国の過去を否定的に捉える自虐史観が広がる中で、コロンブスは海図なき航海に挑戦した「英雄」から先住民を抑圧した「極悪人」へと見方が様変わりしてしまった。

 保守派コラムニストのヘンリー・オルセン倫理公共政策センター上級研究員は、ワシントン・ポスト紙(電子版)で、コロンブスデーから先住民の日への名称変更は、西洋文明そのものを断罪することに主眼が置かれた動きであると指摘した。

 オルセン氏によると、コロンブスデーの名称変更は中南米の社会主義政権が行ってきたことだという。ニカラグアのサンディニスタ政権は「先住民・黒人・民衆抵抗の日」に、ベネズエラの故チャベス大統領は「先住民抵抗の日」にそれぞれ改称した。その狙いは「西洋文明が本質的に抑圧的、強欲だというレッテルを貼り、社会主義政府をその代わりと位置付ける」(オルセン氏)ことにあった。

 長らく「社会主義不毛の地」だった米国でも近年、若者を中心に社会主義を支持する傾向が強まっているが、自虐史観の広がりが建国の理念や米国の政治経済体制に疑念を生じさせていることと決して無関係ではないだろう。

 ワシントンDCは連邦政府の直轄地であるため、コロンブスデーの恒久的な名称変更には連邦議会の承認が必要となる。従って、今回の名称変更はあくまで一時的なものだが、今後も変更を求める主張は出てくるだろう。

 コロンブスを残忍な極悪人と捉えるならば、名称変更の動きは祝日にとどまらないかもしれない。そもそも「コロンビア特別区」という名称自体が不適切ではないか――。そんな主張が出てきても決して不思議ではない。

 編集委員 早川 俊行